くすり
生殖補助医療(ART)において複数の卵子を得るためには、卵巣中の卵胞発育を強く刺激して多くの卵胞の発育を促す必要があります。自然周期といって、くすりをほとんど使わず自然のままに1つの卵胞を発育させる手段もありますが、複数の卵子を得るためにはくすりを用いた卵巣刺激を行います。
自然周期(低刺激周期) における卵胞発育 |
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卵巣刺激による卵胞発育 |
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くすりの使用目的
卵巣刺激を行う場合には、いくつかの種類のくすりを組み合わせて投与します。
1.卵胞を発育させるためのくすり(卵巣刺激):
卵胞の発育に必要なホルモンはFSH、LH、hCGですので、これらの代わりとなるゴナドトロピンなどを補充します。
2.LHサージをおこさせないためのくすり:
卵巣刺激を行うことで複数の卵胞が発育し、「もう排卵していいよ」というシグナルがでてきます。このシグナルがLHサージ(LHが一気に大量に分泌)です。LHサージがおきてしまうと、排卵(卵巣から卵子が飛び出す)されてしまい、採卵時に卵巣内に“卵子がない”状態となります。そのため、LHサージをおこさせず、採卵時まで卵巣の中に卵子が存在できる状態をつくる必要があります。このようなくすりには、GnRHアゴニスト、GnRHアンタゴニストがあります。
3.卵子を成熟させるためのくすり:
自然の妊娠経過においてはLHサージがおこることで、卵子が成熟します。しかし、LHサージをおこさせないくすりを投与しているため、自然にLHサージはおこりません。卵胞が18〜20mm程度に大きくなった段階で、LHサージの代わりとなるくすりが使われます。
4.胚の着床や妊娠を維持させるためのくすり:
自然の妊娠経過においては、卵巣で排卵が起きると、卵巣内に残った卵胞が黄体となり、黄体から黄体ホルモン(プロゲステロン)と卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されます。これらのホルモンが胚の着床と妊娠維持に重要です。そのため、これらホルモンの分泌量が少ない場合にプロゲステロンなどを補充します。
くすりの組み合わせ
不妊の原因や卵巣の反応性は人によって異なるため、一人一人に合った最適な治療法を選択する「オーダーメイドの治療法」という考え方が普及しています。まず初めに、年齢やAMH値、治療歴などにより治療法を決定し実行します。その後、採卵数や良好胚がない/少ない場合には治療法を変えていきます。
卵巣を強く刺激する卵巣刺激法には、くすりの種類と使用開始タイミングによって、以下のように3つに分けられます。他に、卵巣をあまり刺激させない方法として、くすりを使わない「自然周期(法)」、少ない量のくすりを使う「低刺激周期(法)」があります。
1.GnRHアゴニストショート法
月経が始まってからゴナドトロピンを投与し、その後、GnRHアゴニストを投与する方法です。卵巣刺激は強めです。
2.GnRHアゴニストロング法
月経が始まる前(黄体期)からGnRHアゴニストを投与し、月経が始まってからゴナドトロピンを投与する方法です。採卵日を調節することができます。
3.GnRHアンタゴニスト法
月経が始まってからゴナドトロピンを投与し、卵胞がある程度発育した段階で、GnRHアンタゴニストを投与する方法です。
JP-RM-2300017