胚の質
ART(体外受精や顕微授精といったより高度な生殖補助医療)において多くの場合、複数の卵子を採取(採卵)し受精させて培養します。一度にまとめて採取しても、受精後にぐんぐん発育していく胚(受精卵が発育したもの)もあれば途中で発育が止まる胚もあります。胚移植を行う際には、着床率を高めるために、培養した胚の中から最も質の高い胚(「良好胚」といいます)を選んで移植します。複数回の移植を行ってもなかなか着床しないという場合、原因の多くは胚の質にあるといわれています。
胚の選別は、主に形態的な評価に基づいて行われます。良好胚の特徴は、媒精2日目に4細胞、3日目に8細胞以上に発育し、細胞分裂した際のそれぞれの細胞(割球)の大きさが均一で、フラグメンテーションといわれる細胞の破片が少ないこととされています。胚の発育のスピードも重要で、発育が遅すぎたり早すぎたりする場合も良好胚にはなりません。
正常な胚では通常1つの細胞(割球)に一つの核(染色体が存在し遺伝情報の保存と伝達を行う)がありますが、複数の核を認める「多核胚」が生じることがあります。多核胚は染色体異常率が高く、多核胚を移植した場合には着床しにくかったり流産が多かったりします。
初期胚での胚の質の分類
媒精後1〜3日後に胚が2〜8つに細胞分裂したものを「初期胚」といいます。媒精後2日目の初期胚における胚の質レベルはグレード1〜5段階(Veeckらの分類)に分かれており、グレードが小さいほどより良好胚といえます。初期胚のグレード分類は、分割された細胞それぞれ(割球)の大きさが均一かバラバラなサイズかという分割のキレイさと、細胞の破片であるフラグメンテーションの多さで判断します。
割球が均一でフラグメンテーションがない胚をグレード1、割球が均一でフラグメンテーションがわずかにある場合をグレード2、割球不均一で少量のフラグメンテーションがある場合をグレード3、割球不均一でかなりのフラグメンテーションがある場合をグレード4、割球がほとんどみられずフラグメンテーションで埋め尽くされている場合をグレード5とします。グレード3までは十分妊娠の可能性があるとし、妊娠確率の高いグレード1から優先的に胚移植に用います。
なお、病院やクリニックで独自の分類を使用していることもあります。
Veeck(ビーク)らの分類
胚盤胞での胚の質の分類
媒精5〜6日後の、初期胚よりもさらに発育したものを「胚盤胞(はいばんほう)」といいます。胚盤胞は発育するにしたがい胞胚腔の広がりが変化するため、胞胚腔の状態から発育程度を6段階に分類します。初期のものがグレード1、胞胚腔の広がりが進むにつれて2、3、4とグレードが進み、グレード6は着床寸前の状態です。
Gardner(ガードナー)の分類―胞胚腔の大きさによる分類
そのうち、グレード3以上の胚盤胞は、さらに内細胞塊と栄養外胚葉の状態によってA〜Cに細分類します。内細胞塊は将来胎児になる部分で、大きく鮮明であるほど良いとされています。栄養外胚葉とは将来胎盤になる部分で、大きさが均等で数が多いほど良いとされます。発育スピード(胞胚腔の大きさからみた発育状態:上記、表)と内細胞塊、栄養外胚葉の状態(以下、表)を合わせてグレード分類をし、「3AA」とか「4AB」のように評価します。数値が高くよりAAに近いものが質の高い胚盤胞です。基本的にグレード3以上、その中でも3BB以上は良好胚であり移植の対象になります。
なお、病院やクリニックで独自の分類を使用していることもあります。
Gardner(ガードナー)の分類―内細胞塊と栄養外胚葉による細分類
例えば3ABの場合、発育スピード(胞胚腔の大きさからみた発育状態)は”胞胚腔が胚を完全に満たす”レベルでグレード3、内細胞塊は細胞同士が密に接し細胞数が多いのでA、栄養外胚葉は疎で細胞数が少ないのでBということになります。