不妊College
研究段階の治療(卵子凍結・保存、卵子提供)

卵子凍結・保存

未受精卵子の凍結・保存は、「医学的適応」としてがん患者さんが妊孕性を温存する方法の1つとされています。一方、女性の晩婚化が進み、出産を希望する女性の加齢を原因とする不妊に対する治療法としても求められ、海外で行われるようになりました。日本では2018年に日本生殖医学会のガイドラインが改正され、医学的適応がない場合においても、加齢等により妊孕性の低下をきたす可能性がある場合には未受精卵子を凍結・保存する方法が適応になりました。こちらを社会的適応といいます。

社会的適応に関する条件として、以下の4項目などが定められています。

  1. ① 凍結・保存の対象者は成人した女性で、未受精卵等の採取年齢は、36歳未満が望ましい
  2. ② 本人の生殖可能年齢を過ぎた場合には、通知の上破棄できる
  3. ③ 凍結された未受精卵子等の売買及び譲渡は認めない
  4. ④ 本人の生殖以外の目的では使用できない

また、卵子凍結・保存を実施する施設には「生殖補助医療実施医療機関」の登録施設である等、さまざまな条件が定められています。ただし社会的適応の問題点としては、以下の2点が挙げられます。

  • 高齢で凍結・保存していた卵子を使用し妊娠・出産した場合、妊娠高血圧症候群などの母体合併症のリスクが高くなること
  • 凍結卵子の顕微授精による妊娠率や生産率は低く、将来の妊娠・出産の可能性は不明瞭であること

凍結卵子を使った妊娠までの流れ

凍結精子を使った妊娠までの流れ

卵子提供

卵子提供は、これ以外の方法では妊娠の可能性のない病態の場合のみ、原則として卵巣不全の場合に適応される方法です。ただし、体外受精を複数回行ったうえで主治医が妊娠の可能性がないと判断された場合も適応となりえます。また、治療の前に夫婦が婚姻しているかどうか、お互いに同意しているかの確認が必要です。
提供者は以下の3項目が条件になります。

  1. ① 年齢が低いこと
  2. ② 疾患遺伝子をもっていないこと
  3. ③ 重篤な感染症をもっていないこと

卵子提供では体外受精が必須となり、提供者の採卵に合わせて夫の精子を採取、受精・体外培養したあとに妊娠に向けて胚移植をします。

卵子提供の問題点としては、以下の3点が挙げられます。

  • 母体と胎児の間に遺伝的つながりが全くないこと(告知と出自を知る権利の問題が生じる)
  • 母体の女性が卵巣不全という自然妊娠ができない状態であること
  • 比較的高年齢女性の適応が多く、早産、妊娠高血圧、産後大量出血などの妊娠合併症のリスクが高いこと

※ 告知は「親が子どもに卵子提供で生まれたことを伝えること」。出自を知る権利は「子どもが卵子提供者の名前や遺伝的背景などを知る権利」。出自を知る権利を認めないことを匿名性という。

参考文献:吉村康典(監修):生殖医療ポケットマニュアル第2版,医学書院,2022

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