女性の生殖器の構成
女性の生殖器には子宮、卵巣、卵管、腟などがあります。女性ホルモンを分泌し、受精に必要な卵子を作り、男性からの精子を受け入れて妊娠することで、体内で胎児を育てるという大切な役割をもっています。
生殖器の位置
生殖器のしくみ
豆知識 trivia
不妊治療で受精卵を子宮に戻す(=胚移植)際、施設によってはトイレに行かず(=膀胱に尿が溜まった状態)来てほしいと要望されることもあります。これは、子宮が膀胱側に傾いているためであり、膀胱に尿が溜まることで子宮がまっすぐになり、移植しやすい場合があります。
子宮
子宮は受精卵(=男性から射精された精子が女性の卵子にたどり着き合体/結合すること)を着床させ育てる器官であり、受精卵を発育させるベッドのような役割をもちます。
上部2/3を子宮体部、下部1/3を子宮頸部と呼び、子宮体部の上部を子宮底といいます(上記、図「生殖器のしくみ」参照)。
子宮壁の一番内側にある子宮内膜は、月経周期(=生理が起きてから次の生理が始まる前までの期間)に伴って変化しています。この変化に関わる主なホルモンはエストロゲンとプロゲステロンです。卵巣内で卵胞が発育する時期では、子宮内膜はエストロゲンによって増殖して厚くなります。これを『増殖期』といいます。排卵した後、プロゲステロンとエストロゲンの作用によって子宮内膜はさらに厚みを増し、受精卵の受け入れ体制を整えます。妊娠が成立しない(=受精卵が着床しない)と、プロゲステロンとエストロゲンの分泌が低下し、機能層が壊死して子宮内膜が剥がれ落ちます(=「生理」=専門用語としては「月経」「消退出血」)。これを『月経期』といいます。
なお、受精卵が子宮内膜に着床できる環境ではないことで不妊になる方も多くいます。
卵巣
卵巣は子宮の両脇に1つずつ存在し、卵子の生成、成熟、排卵を行う生殖器官であるとともに、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)を分泌する内分泌器官です。
「内分泌」とはホルモンを分泌することです。
卵巣の中には卵子のもとになる「原始卵胞」が多数存在しており、その一部が脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の作用で発育し、「発育卵胞」を経て「成熟卵胞」(グラーフ卵胞)となります。発育中の卵胞は、女性ホルモンのひとつであるエストロゲン(具体的にはエストラジオール)を分泌します。
卵胞とは、卵子を包み込んでいる袋のような組織です。卵胞が十分大きくならないと、排出された卵子も受精に至りません。不妊治療においては、卵胞の数、大きさなどが大変重要になります。
成熟卵胞が卵巣の表面に突出し、卵胞の中に存在する卵子が卵巣の外に排出されることを「排卵」といいます。排卵後に残った卵胞は、LHの作用によって黄体となります。黄体はプロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンを分泌して、子宮内膜を着床に適した状態に変化させます。このタイミングで子宮に受精卵が着床しなかった(=妊娠しなかった)場合は、黄体は退縮し白体となります。一方、受精卵が着床した(=妊娠)場合には黄体は妊娠黄体として妊娠12週目程度まで存在し、プロゲステロンを分泌し続けます。
卵巣中の卵胞の発育イメージ
生まれる前の胎児において卵巣にはすでに一生分の原始卵胞が存在しており、他の細胞のように細胞分裂で数を増やすことはできず、生誕後は数が減るのみです。誕生時に200万個ありますが、思春期には10-40万個、月経が生じる思春期以降は1ヵ月に約1000個ずつ減少します。
成熟卵胞に向かって多くの卵胞が発育していきますが、通常、1回の排卵タイミングで排卵できるのは1個の卵胞です。排卵できる卵胞は排卵に適したちょうど良い発育状態の卵胞であり、これを「主席卵胞」といいます。これ以外の途中まで大きくなった残りの数十個の卵胞はしぼんで消失します(これらを閉鎖卵胞といいます)。一次卵胞から成熟卵胞まで発育するには100日程度かかるため、卵巣には様々な発育段階の卵胞が存在します。
各発育段階における卵胞の状態
豆知識 trivia
通常、自然に排卵される場合、数ある卵胞の中から1個だけ排卵に至ります。しかし、不妊治療(特に、体外受精や顕微授精といわれる高度な生殖補助医療)の場合、くすりで卵巣を刺激し多くの卵胞を発育させることで、複数の卵子を採卵できるようになります。
不妊治療で一度に多くの卵胞を発育させ採卵することで、「不妊治療によって、卵巣から卵胞(卵子)が早くなくなってしまわないの?」と思われるかもしれません。通常、自然に排卵される場合でも複数の卵胞が発育していますが、適した1個の卵胞を除き、残りの数十個はしぼんで消失します。これを、閉鎖卵胞といいます。不妊治療では卵胞を閉鎖させずに、多くの卵胞を発育させるだけですので、不妊治療によって卵胞(卵子)が早くなくなることはありません。
卵管
卵管は全長7-12cm程で卵巣と子宮をつなぐパイプのような役割をもち、卵巣から腹腔内に排卵された卵子を捕まえて子宮へ輸送するとともに、卵子と精子が出会って受精する場でもあります。
卵管の外側端は卵管采(らんかんさい)と呼ばれる漏斗状の構造になっており、腹腔内に排卵された卵子はここで捕捉されます。その後、卵子と精子が出会うと受精が起こります。受精卵は分裂しながら卵管内を子宮へと運ばれていき、準備が整った子宮内膜に着床します。
なお、卵管が狭くなったり詰まったり(卵管の周囲が癒着)して、卵子や精子や受精卵が卵管を通ることができないことで不妊になる方も多くいます。
腟
腟は膀胱や尿道の後ろ、直腸の前にあります。性交の際に男性のペニスを受け入れる7-10cm程度の長さの器官で、精子を子宮に導きます。また、子宮からの月経血や粘液を排泄したり、出産時の産道にもなります。腟粘膜は常在菌であるデーデルライン桿菌という乳酸菌の働きで酸性に保たれており、外部からの細菌の侵入を防いでいます。